船橋にゆかりのある音楽家をご紹介。第七弾はインド民族楽器バーンスリーを演奏する寺原 太郎(てらはら たろう)さんにお話を伺いました。
関東最初の拠点が船橋、心に残る南三咲の人たちの温かさ
ふなおん
大学から大阪に移り卒業後もしばらく大阪に住んでいましたが、音楽活動の拠点を関東に移すと決めた時に戻ってきた場所が船橋でした。最初は東船橋、その後は南三咲に合計6年ほど住んでいました。
今は佐倉に自宅兼教室を構えています。音楽活動では日本のみならず世界中を回っていますが、佐倉・千葉・船橋など千葉県北部エリアで演奏やコンサート企画に関わることも多くあります。
寺原さん
ふなおん
それだけでなく周囲の人の温かさも思い出深いことばかりです。私は自宅を練習場所にするので、どこに住んでも騒音問題と戦わねばなりません。南三咲の皆さんは快く接してくれて、引っ越してすぐの町内会の集まりで「南三咲にインド音楽の巨匠が引っ越してきました!」って紹介してくれたほどです。巨匠なんて言い過ぎだろとは思いましたが、ホイホイ乗せられて無茶振りでその場で演奏を披露して。
そんな出来事もあったので、少し練習をお休みしてたりすると「最近、音が聞こえないけど大丈夫?」と声をかけられたりすることもありました。音楽家にとっては最高の環境でしたね。
寺原さん
ふなおん
寺原さん
巨匠の演奏に受けた衝撃からインド音楽の道へ
ふなおん
ガムランサークルの活動が面白くて民族音楽に興味を持ち、セネガルの太鼓・モンゴルの喉歌・雅楽など色々なものに手を出しました。
そんな時にインド人間国宝のバーンスリー奏者であるハリプラサード・チョウラシア(以下、愛称のハリジー)の来日公演を聴いて、言葉にならないほどの衝撃を受けました。こんな音楽があるのか、こんな世界があるのか、と。それと同時に、日本でバーンスリーをやるなら自分だ!という使命感のようなものが湧いてきたんです。
すぐにハリジーの弟子であるバーンスリー奏者の中川博志さんに弟子入りし、何度かインドを訪れてハリジーから直々にレッスンを受ける機会にも恵まれました。
寺原さん
ふなおん
インド音楽はもともとは「歌」を大切にする音楽です。近年では楽器の技巧的な面をことさらに強調するようなスタイルの奏者も多いですが、アミット・ロイは歌を大切にするシタール奏者でした。
なのでバーンスリー(笛)とシタール(弦楽器)という構造がまったく違う楽器を演奏する者同士ではあるのですが、彼からはインド音楽の歌心を中心に様々なことを学びました。
寺原さん
ふなおん
今振り返ると、音響の整ったホールで演奏することの大切さとともに、プロ活動をする上で欠かせないコンサート準備や集客の大切さを学ばせたかったんだと思います。ただ当時はもうてんやわんやで(汗)
最終的には広報関係に強い妻の助けも借りて、500人収容のホールがほぼ満席になるくらいのチケットを売ることができました。この経験は「自分は音楽家として生きていけるんだ」と思った大きな転換点になりました。
寺原さん
インド音楽の楽しみ方
ふなおん
インド音楽は1曲1曲が長く、30分や40分くらい演奏が続くような曲も多いんです。クラシック音楽などに慣れている人はずーっと真面目に聴こうとするんですが、そんなに長く集中力が持つ人はいません。でもそれでいいんです。
インド音楽の発祥は王様をくつろがせるための宮廷音楽ですから、温泉に入るような感覚で音に身を任せてしまうのが良いんです。そうしていくうちに日々の忙しさで興奮状態にある脳のスイッチがOFFになってリラックスできる。それがインド音楽の効能なんです。
寺原さん
ふなおん
寺原さん
他の民族音楽アーティストたちともネットワークを築く
ふなおん
2019年5月には、総勢12組の民族音楽アーティストたちを一同に集めた大きなイベントも開催しました。
寺原さん
ふなおん
そこでの縁から、日本を拠点とする一流の民族音楽アーティストたちとのネットワークができました。どうしても日本だと各国独自の民族音楽を演奏する場が少ないので、彼らが活躍する場を作りたいという想いからイベントを開催しています。
寺原さん
船橋への想いと今後の展望
ふなおん
また、インドと日本の共通点として「縁(えん)」をとても大切にするという文化があります。船橋は私が関西から戻ってきて最初に住んだ場所なので、とても思い入れがあります。そうやって私の心の中に「船橋」の部屋があるというのはご縁であり、きっと何かの意味があることなのだと思います。そんな街で何かをしていきたいし、それが以前お世話になった人たちへの自身の近況報告になったら嬉しいです。
寺原さん
ふなおん
私自身がハリジーの演奏に衝撃を受けたように、私自身がインド音楽の魅力を伝え、他の誰かに衝撃を与えられるようなレベルに少しでも近づきたいと日々音楽に向き合っています。
また、子どもたちにインド音楽のみならず様々な民族音楽に触れる機会を提供したいとも考えています。西洋音楽のドレミファソラシドだけじゃ説明できない音楽があることを小さい時に知っていたら、きっと人生の視野も広がるだろうと思います。
寺原さん
寺原太郎 – バーンスリー奏者
91年より巨匠ハリ・プラサード・チョウラスィア師の弟子である中川博志氏に、96年より巨匠ニキル・ベナルジー師の愛弟子H.アミット・ロイ氏に師事。06年より継続的にオーストラリアWoodford folk festivalに出演。07年坂本龍一プロデュース「ロハス・クラシックコンサート」出演。映画「るろうに剣心」(2012、2014)、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」(2015)、インドネシア映画「見えるもの、見えざるもの(Shikala Niskala)」(2017)等で挿入曲を演奏。国内外で演奏活動を行う。共演にU-zhaan、常味裕司、Tenzin Choegyalなど。2016年より都賀のギャラリーで「世界音楽紀行」をナビゲート、ワールドミュージックフェスティバル「オンガクノムラ」企画。インド古典音楽の深い理解に基づく、叙情的かつダイ ナミックな演奏で、各方面より高い評価を受ける。