船橋にゆかりのある音楽家をご紹介。第26弾はソプラノ歌手の井上 知里(いのうえ ちさと)さんにお話を伺いました。
※内容はインタビュー(2021年8月)時点のものとなります
ソレイユ声楽コンクール第一位獲得、新進気鋭のオペラ歌手
ーはじめに、井上さんと船橋とのつながりを教えてください。
船橋出身・船橋育ち、現在も船橋市内在住です。中野木小学校〜前原中学校を卒業しました。
井上さん
ー小中学生の頃は部活で音楽を?
中野木小学校では合唱部、前原中学校では管弦楽部に所属していました。「千人の音楽祭」には小中学校の部活動のイベントの1つとして何度も出演しました。
井上さん
ー現在の活動は?
東京音楽大学の大学院に通いながら、オペラを専門とするソプラノ歌手としての活動に取り組んでいます。
井上さん
ーイベント等への出演は?
コロナ禍で数は少なくなっていますが様々なコンサートやデパート等でのイベント演奏、コンクールにも積極的に挑戦しています。2021年6月に行われたソレイユ声楽コンクールでは、ありがたいことに第一位、音楽現代新人賞を頂きました。
井上さん
音楽との出会いはバイオリン
ー井上さんと音楽との出会いは?
6歳でバイオリンを始めたのが音楽との出会いでした。
井上さん
ーバイオリンを始めたきっかけは?
母からの勧めです。自分の記憶にはあまり無いですが、幼稚園にあまり馴染めず、泣いて帰ってくるようなことも多かった子だったみたいで…それを心配した母が周囲に相談して、何か珍しい習い事をして自信をつけさせるのが良いと、バイオリンを選んだと聞いています。
井上さん
ー小学校では合唱を?
中野木小学校には残念ながら管弦楽部が無かったのですが、音楽は好きだったので合唱部に入りました。それと並行して、バイオリン教室にはずっと通い続けていました。
井上さん
ー中学で念願の管弦楽部に入ったのですね。
中学校の管弦楽部は気の合う仲間も多く、楽しかった思い出ばかりです。
井上さん
ー中学の部活で特に思い出に残っていることは?
様々なコンクールに挑戦したことですね。初めて挑戦したソロコンクールで難しい無伴奏曲を弾いたことや、同級生だったバイオリニストの竹部朱里さんとの二重奏で挑戦したTBSこども音楽コンクールで賞を頂いたり。自分の輝ける場所はここだ!というような感覚がありました。
井上さん
ー高校でもオーケストラを?
本格的に音楽に取り組みたいという気持ちから幕張総合高校に進学しました。オーケストラ部がとても強く、音楽コースもある学校です。
井上さん
高校時代にバイオリンから声楽へ転向
ー高校を選ぶ段階で将来は音楽家の道に進みたいと考えていたのですが?
小学生の頃からそれとなく周囲に音楽の道を勧められていましたが、本気で音楽家になろうと思ったのは中学3年生の頃でした。ただ、その時点ではプロのバイオリニストになりたいと思っていたんです。
井上さん
ーそれがなぜ声楽の道に?
2つの理由が重なりました。1つが自分のバイオリンに自信を持てなくなっていたこと。
幕張総合高校のオーケストラ部には、小さい頃からバイオリンをやっていて、ものすごく上手な人がたくさんいました。周囲とのレベルの差に、これは自分にはちょっと無理かも…と怖気付いてしまったんです。
井上さん
ーもう1つは?
それ以上に大きな転機となったのが高校1年の終わりの定期演奏会でした。定期演奏会で歌う機会を頂いたんです。
井上さん
ー管弦楽部なのに歌を?
部活では毎年マーチングとミュージカルを組み合わせたショーをやるのが定番だったんです。部内オーディションに手を挙げてミュージカルの役を勝ち取りました。そこで歌ったのが自分でもすごく手応えがあって、部活の先生からも「音楽の道を目指すなら歌の方が向いている」と太鼓判を頂いたんです。
井上さん
ーバイオリンから歌への転向は苦労はありませんでしたか?
意外とすんなりと転向することができました。小学校で合唱経験があったことや、バイオリンも歌と同じく旋律を奏でることが多い楽器という共通点などに助けられたのだと思います。
井上さん
ーバイオリン経験のある声楽家というのは少ないように思います。バイオリンの経験がプラスに働くこともありますか?
大いにあります。オペラはオーケストラと一緒につくるものなので、オーケストラの気持ちが分かるのはとても大きな強みだと思っています。技術的なところでは、オーケストラのスコアも読むことができますし。
井上さん
ーその他には?
小さい頃から音楽をやっているので、楽譜を読む速さや楽曲を理解するスピードは周囲よりかなり早いと思います。声楽は高校生くらいから始める人も多いので。ただ、歌はバイオリンと違って歌詞があるので、言語の理解などは大変です。
井上さん
オペラに親しむ人を増やしたい
ー大学は東京音楽大学に進学されたんですね。高校時代は周囲とのレベルの差に怖気付いてしまった、といったお話もありました。大学ではいかがでしたか?
音大生活は自信を持ってスタートすることができました。高校まではオーケストラという集団での活動だったのが、声楽は基本的にソロでの活動となるので、良い意味で自分のことに集中できていたのかもしれません。
井上さん
ー歌へのきっかけの転向はミュージカルだったというお話がありました。今はオペラが専門なのはなぜですか?
私の声質がオペラ向きなんです。それとオペラという舞台芸術の素晴らしさに心を惹かれたという点もあります。
井上さん
ー大学時代に特に印象に残っていることは?
やはりコンクールですね。様々なコンクールに挑戦して賞を頂くこともできましたが、一番印象に残っているのは散々な結果だった大学4年生の頃のコンクールです。
井上さん
ーあまりよくない結果のものが一番印象に残っている?
自分の立ち位置を認識できる、非常に良い機会になったんです。それまではがむしゃらに自分のことだけを考えていたのが、冷静に周囲との比較ができるようになったというか。音楽家として一皮むけた瞬間だったようにも思います。
井上さん
ー現在は大学院に?
オペラの世界は他の音楽分野よりも伝統が重んじられる部分があり、大学を卒業しただけでは学びや経験がまだまだ足りないのです。オペラは歌だけでなく演技もしなくてはいけません。学部生の頃は歌の技術を高めるのが中心でしたが、大学院では演技に関して特に深く勉強しています。
井上さん
ー今後の活動は?
オペラの研修所などに入って活動していきたいと考えています。
また、コロナ禍が落ち着いたらになりますが、海外への留学をしてみたいという気持ちも持っています。
井上さん
ー個人での演奏活動は?
大学生の頃に北習志野駅近くのコンサートサロン樂~GAKUで小さなコンサートをやったことがありました。そのような小規模なコンサートでオペラの一節を取り上げるなどして、オペラに親しみを持つ人を増やしていきたいです。
井上さん
船橋への想いと今後の展望
ー井上さんが思う船橋の良いところ・もっとこうだったら良いのにというポイントを教えてください。
ららぽーとによく行きます。便利さとのどかさが同居しているのが船橋の良いところだなと思います。
その一方で、オペラに関する活動がなかなか表に出てこないのが残念だなと思います。他の街では市民オペラが1つや2つ動いていたりするのですが、船橋ではなかなかそういった話を聞きません。
井上さん
ー最後に、今後の井上さんの展望をお聞かせください。
私の歌を聞いて、より多くの人に喜んでもらいたいと思っています。また、ただ綺麗に歌うだけでなく、お客様に感動を届けられるような音楽家を目指しています。
井上さん
井上 知里 – ソプラノ歌手
千葉県船橋市出身。
千葉県立幕張総合高等学校を経て、東京音楽大学声楽演奏家コース卒業。在学中、給費奨学金及び、明治安田クオリティオブライフ文化財団より奨学金を授与される。現在、東京音楽大学大学院修士課程オペラ研究領域2年に在学中。
第17回日本演奏家コンクール高校生の部第1位、千葉県教育委員会教育長賞及び、ハンナ賞を受賞。
第17回大阪国際音楽コンクールAge-U入選。第23回宮日音楽コンクール最優秀賞。第17回東京音楽大学コンクール第3位。
2018年、英国ギルドホール音楽院へ短期留学。
2020年、東京音楽大学卒業演奏会に出演。
第38回ソレイユ声楽コンクール第1位及び、音楽現代新人賞を受賞。
これまでに声楽を緑川まり、水野賢司、橘洋子、釜洞祐子の各氏に師事。